景色

1:Meerbuschと隣町を繋ぐいちばん主要な道路。大きな街路樹は多分ユリノキ。2:Meerbuschの隣町、Neussの中心から少し離れたところにある古い門。ドイツでは路面電車が縦横に走っており、市民の大切な脚になっている。

Story

01

物語のはじまり

仕事の関係でドイツに赴任したのは、もう10年も前のことになります。生活の場としてドイツの街に立った時に初めに感じたことは、古い建物が多いこと、そして日本のそれとは比べ物にならないほどの大きな街路樹の存在でした。

古い建物に関しては、ドイツ人の古いモノを大切にする意識が大きく関係するのでしょう。例えば、不動産屋を覗いてみると、古ければ古いほどお屋敷の値段が高いことに驚かされます。

築年数が経た家ほど、その価値が下がってしまう日本ではとても考えられないことです。「石の家とは違い、木造の家は経年による傷みが激しい」と言った事情も確かにあると思いますが。


景色

1:Neussの教会。この様な大きな街路樹はいたるところで見ることが出来る。2:Meerbusch郊外の旧裁判所を利用したホテルをゲートから臨む。年数の経った木々に囲まれている。3:旧裁判所を利用したホテル周辺の遠景。右側には住宅街が広がっている。町全体が豊かな森に囲まれているのが分かる。

Story

02

時間に対する
寛大さを感じる

そして、本当に大きいドイツの街路樹。それこそ3階建て、4階建ての家の屋根を超えるような大木が当たり前のように並んでいます。日本とは異なり電柱・電線がないので、大きく育っても支障がないし、電線のない大きな空を背景に広がる大樹の梢は実に清々しいものです。勿論、秋の落ち葉の量は半端ではないですが、落ち葉掃除をする清掃車や仕事が存在するので、大きなストレスにはならないのでしょう。

そして、街路樹は都市景観を織りなす財産だという共通認識も大きな要因のひとつ。またドイツには、私有地や公有地の別なくある程度の木を伐採することを禁じる法律もあるそうです。そのため、街路樹に限らず森や広場、家庭の庭木に至るまで、街中には実に多くの大樹があふれています。樹がそこまで大きくなるにはそれなりの時間も必要なはず。古いモノを大切にする気持ちには、そんな時間に対する寛容さや畏敬の念さえ感じます。


景色

1:私が良く散歩した森の入り口。この先は広大な森になっている。2:ドイツでは、毎週どこかでFlohmarkt(フリーマーケット)が開かれている。服、家具や電化製品、台所用品など生活用品はすべてここで調達できる。もちろん、アンティークやビンテージも並んでいる。3:ライン川の土手で放牧されている羊たち。対岸に見えるのはデュッセルドルフのAltstadt(旧市街)とラインタワー。こののんびりした雰囲気もドイツの魅力。

Story

03

ゆっくりと家で
楽しむこと

余談ですが、私たちが住んでいたMeerbuschには多くの森があります。その中でも、町の中心部から少し離れたヒンデンブルグ通りの先にある森が、特に私のお気に入りの場所でした。樹齢100年は優に超えるであろう大樹が点在する広大な森で、道もしっかりと整備された気持ちの良い散歩コースでした。実はそこが、樹木葬のための森、つまり墓地であったことを知ったのは日本に戻って7年くらい経ってからのことでした。

さて、ドイツで生活する中で、実際にドイツ人の「古いモノを慈しむ」暮らしを見てきました。例えば、毎週どこかで開催されるFloumarkt(フリーマーケット)でやり取りされる古物たち…ガラクタ同然のものも結構ありましたが(笑)、物はリサイクルして使い続けるのが当たり前との共通理解があったように思います。また、ドイツでは法律により、休日には基本的に商業店舗が営業できません。

しかし皆さん、お店がすべて閉まっていても、ウィンドウショッピングを楽しんだり、カフェでゆっくりとお茶をしたり、散歩をしたりして楽しんでいるようでした。行く当てもない私たちも、部屋に好きなものを飾って、家でゆっくりとする生活を楽しむことで、新たな「時間と価値観」を発見できたように思います。


景色

昔の銘仙の着物の端切れ。今でも着物として愛用される方も多い銘仙は、端切れとしての利用価値も高い。

Story

04

手間ひま
かけたもの

服飾関係をやっている友人が、こんなことを言っていました。

「現代の服で50年後に残っている服は無いだろう」

これは勿論、日常で着るいわゆる量販店で扱われている服に対しての言葉でしょう。それに対して、アンティークやビンテージの服は確実に残って、高値で取引をされています。その違いは、希少性と言うことだけではなく、手間ひまをかけた作りの良さにあるように思います。そしてそれは、他のアンティーク、ビンテージに共通することではないでしょうか。


景色

浅煎りのコーヒー用のカップとしてお馴染みのオールドノリタケのカップ&ソーサ。印判なのでデザインは共通だが、一客一客の重さは異なる。

Story

05

手作りの面白さ

まだ機械の発達していない時代は、「ものつくり」の中心は手作業でした。だからこそ、そこで出来上がった製品には、手作りの良さ・面白さがあるように思います。例えば、てんぐーとで使っている浅煎り用のコーヒーカップは1912年から1914年の間に作られた日本陶器株式会社(現在のノリタケ)のもので、たいそうな薄造りになっています。決して美術品ではない雑器ながら、お客様にもわかる、それなりの風格を感じます。このカップ&ソーサは印判ゆえにデザイン的には個体差はありませんが、ビンテージの中には同じ種類の食器なのに手仕事ゆえに柄が微妙に異なるものも少なくありません。また、ひとつひとつの重さも微妙に違ったりして、このカップ&ソーサはまさしくそれに該当します。

無論、新しい食器にも良いものは沢山あります。それに、食洗器で洗えて扱いがとてもラクな利点もあります。その点、アンティークやビンテージには食洗器はNO GOODのものばかり、手洗いしかできません。しかし、ひとつひとつ丁寧に洗うからこそ分かる楽しさもあります。それは例えば、面白いデザインの再確認だとか、釉薬の美しい色の再発見だとか。


景色

ビンテージのFiggjoのカップ&ソーサとQuistgaardのプレート、そして現代のガラス容器との組み合わせ。現代のモノにもビンテージに劣らぬ魅力がある。

Story

06

両者の良さを
生かして

ビンテージ食器を購入され、早速その晩の食事でお使いになられたお客様から、「食卓が豊かになった」というお言葉を頂きました。それはビンテージ食器の持つ温かさや大らかな優しい雰囲気から来るのだとおもいます。そんな存在感もビンテージ食器の魅力のひとつでしょう。

しかし、だからと言って食卓の食器をすべて古いモノでそろえるのはお薦めできません。新しいモノには新しいモノなりの良さがあり、新しいモノと古いモノを取り混ぜて使うことにより両者の良さを見直したり、新しい魅力が生み出されたりするのですから。


景色

コペンハーゲンから電車でも約30分で行けるスウェーデンの町、マルメで出会ったステキなお店のディスプレイ。

Story

07

温かい光に
包まれた部屋で
過ごす

食器の話ばかりになってしまいましたが、実は今いちばんお薦めしたい雑貨は「電気スタンド」。デンマークでの買い付け中、夕刻にもなるとカーテンのない部屋のあかりが先ず目に入ってきます。そこには、温かい光に包まれた部屋での暮らしを垣間見ることが出来ます。日本に多い「白い光」ではない、電球色の温かさの中に浮かぶ優しい風景に心が和みます。一日の仕事を終え、ゆっくりとくつろぐ夜の時間。心と体を癒す時間だからこそ、暮らしの中での照明の大切さをそこに感じます。

しかし、部屋の照明器具を変えるのはちょっと大がかりすぎ。そこで、登場するのが「電気スタンド」。メインの照明を落として、お気に入りの椅子に腰かける。その傍らのテーブルに置いた電気スタンドを灯すだけで、そこにプライベートのステキな空間が出現します。しかも、電気スタンドは持ち運び自由。自分の好きな時に、好きな場所にそんな場面を演出することが出来るんです。


景色

いずれも瑕疵があって売り物にならないモノたち。それでも余りある魅力に惹かれて自宅で使っています。ちなみに左側のカフェオレボウルが”値引きのお願い”を一蹴されたコ。

Story

08

本来の魅力の
大切さを知る

買い付けるときは、「売れるかどうか」の判断は当然として、それ以上に「自分の感性に響くこと」を優先します。だから時々、怪しいモノも混じっていたりする。また、フットワークの良さを生かして、多彩な品ぞろえを心掛けています。定番だけではなく一品物にも注意しながら丁寧に探していきます。

実は、ビンテージゆえに傷があるものも少なくありません。しかし、多少傷んでいても、あまりある魅力を持っていれば積極的に購入します。日本人は完璧を求め、小さな傷でも嫌う傾向がありますが、外国ではそれを傷としない、「古いモノなのだから傷があるのは当たり前」的なところがあります。これは余談ですが、欠けが修復されたカフェオレボウルの値引きを頼んだところ、「それは傷ではない」と一蹴されたことがありました。

そういった傷を「古いモノの味」と言うつもりはありません。ただ、その傷ばかりに気をとられて、本来の魅力を見落としてしまうのはとても残念なことです。


景色

1:てんぐーと外観。2:てんぐーと店内。正面の壁はディスプレイスペースとして、定期的にテキスタイルや絵が変わります。

Story

09

強く思うこと

父の店舗を継ぐ話が持ち上がったのは、ドイツから日本に戻る直前のことでした。埼玉県のJR与野駅から8分ほどの、以前は200軒ほどのお店が並んでいた「赤山通り」に面した洋品店の一角。今ではほとんどのお店が閉店し、住宅街になってしまったこの場所で、いったい何をしようか。そこで思いついたのが、好きなものに囲まれて自分を取り戻す時間・空間が提供できるようなカフェと雑貨のお店。今思えば、何と安直な…(笑)。

日本に帰国して感じるようになった忙しすぎる日本の生活の中で、少しでもゆっくりとした時間を提供できれば、豊かな暮らしが実感できる雑貨を紹介できれば、そんな思いで「てんぐーと」を始めました。商品の雑貨たちをディスプレイに使った和風と北欧風が融合したジャパンディスタイル+私たちのセンスで飾られた居心地の良い空間で楽しむ美味しいお茶とスウィーツ。野菜とお肉とのバランスを考えてご用意するランチは、決して豪華とは言えないけれど、ほっこりとする優しいお味です。「.gut」という店名のように、疲れた心にいちどピリオドを打って、次のステキなステップに踏み出す元気が得られる、そんなお店を目指したいと思っています。